昨晩、テレビで井上靖の『天平の甍【いらか】』が放送されていました。ちょっと事情があったため、最
初から観ることは出来ませんでしたが、改めて、この話の主役とも言える鑑真【がんじん】(687~76
3)の偉大さを感じることが出来ました。
日本からやって来た、栄叡【ようえい】と普照【ふしょう】から、『どなたか日本に来て戒律を伝授して
欲しい』と要請された際、弟子たちはなかなか行きたがらない。それはムリもないことだった。当時の
航海術は、今とは赤ん坊と大人以上の開きがある位、危険極まりないことだったからだ。それに、造
船術にしても同様だった。従って、中国の港を出港しても無事に日本に辿り着く確率は、かなり低い
ものだったからだ。そんな空気の中、鑑真は、
『誰も行かぬというのなら、私が行こう。御仏のためなら、命も惜しくない』
と言った。それを聞いた弟子達は、『それならば、私達もお供します』と。このくだり、現場に全然
足を運ばない経営者やリーダーと呼ばれる人達にも読ませたいくだりだと感じました。それだけで
はありません。何と、
日本行きが決定してから、5回も航行に失敗し、最後には失明してまで貫いたのだ
最初の日本への渡航が743年夏で、最終的に日本の都(当時は、奈良)に到着したのが753年の
11月だというから、約10年あまりです。5回も渡航に失敗すれば、凡人であれば、とっくに断念してい
ると思います。それを断念しなかった事に、鑑真の偉大さがあると思いました。かのエジソンも100回
近く失敗したと伝えられ、各種の成功本などに必ずと言っていい程書かれていますが、僕は、エジソン
やその他の近代の成功者以上に価値あると思います。にもかかわらず、そういった成功本にも紹介さ
れていない、鑑真。仕事が早く終わった今日、本を求めましたが、上記の井上靖著の『天平の甍』しか
売っていませんでした。きっと、神の世で鑑真が自分のことを謙遜しているのでは、と思う程でした。し
かし、この『天平の甍』は、きっと現在各出版社で販売されている成功本や経営哲学本に勝る内容だ
と思います。これも、赤鉛筆を用意してじっくり読もうと思います。